事業の立ち上げやプロダクト開発に用いられるデザインリサーチとはなにか?Moon Creative Labで三井物産のビジネスデザインをサポートする2名のデザインリサーチャーに、その目的や手法について聞きました。
目次
デザインリサーチという言葉が示す範囲はとても広いため、一言で説明しようとするとデザインのためのリサーチということになります。どのようなプロダクトを作ればいいのかが明確でないときに、その手がかりを掴むために用いられます。
たとえば、日本企業が国内で冷蔵庫を売りたいと考えたときは、ユーザーやそのニーズのイメージがつきやすく、既存のアイデアに機能や利便性を追加することは容易かもしれません。しかし、海外で売りたいと考えたときには、その国が持つ冷蔵庫に対する価値観や使い方などの文化的背景を知り、理解したうえでプロダクトをデザインすることが求められます。
国内か海外かという違いは例の一つにすぎませんが、未知の領域で特定のユーザーニーズを捉え、プロダクトをデザインするときに、デザインリサーチが用いられます。
デザインリサーチの目的の一つは、 ユーザーが真に欲しているものを明らかにすることです。ユーザーがどんなものを必要としているかを潜在的なレベルで探り、顕在化していないニーズを明確化するための手法がデザインリサーチです。
Moonは「Be Human-Centered(人間中心)」をバリューの一つに掲げており、ユーザーの立場に立ってプロダクトをデザインすることを重視しています。Moonのベンチャーは、この後で説明するデザインリサーチのプロセスを通じて、ユーザーの現状や課題を理解し、本当に必要としているものを正しくイメージすることで、製品の開発を行います。
マーケットリサーチには、すでにある仮説が正しいかどうかを客観的なデータを分析して検証する目的があり、定量的・統計的なリサーチが行われます。一方デザインリサーチは、ユーザーに直接アプローチしながら、これまでにないプロダクトをデザインするために用いられる、定性的で個人の体験にも注目するリサーチと言えます。
マーケットリサーチの考え方は、誰かにプレゼントをするときに「30代女性に喜ばれるプレゼントランキング」などを調べて、1位のものを贈るやり方と言えます。デザインリサーチは、プレゼントを贈りたい相手が普段どんな本を読んでいるのかなどをよく観察し、どういうものが喜ばれるかをイメージして仮説を立て、その人に最適なプレゼントをデザインする方法です。
Moonのインキュベーションプロセスは、大きくわけて4つのプロセスを踏みます。
それぞれのプロセスにおよそ3ヶ月〜4ヶ月間の期間を設けてリサーチと検証を行い、進捗を確認しながら12ヶ月後のデューデリジェンスで投資価値やリスクを審査し、Moonのインキュベーションを離れて自立を目指します。
その中でもMoonでは、最初に行われるコンセプト定義や、そのなかで行われる「ビジョンセッション」と呼ぶ過程をとくに重視しています。
コンセプト定義は、どのような課題に対してどのようなプロダクトを目指すのか方針を決めるプロセスです。そのコンセプト定義を行う際、最初に実施するのがビジョンセッションです。
ビジョンセッションは、プロダクトの目的を言語化するプロセスです。プロジェクトのリーダーとメンバーの共通理解を深める役割も担っているため、初期に実施します。
具体的には、想定ユーザーの洗い出し、課題の見える化、その周辺にどのような利害関係者が存在するのかを可視化するマッピングや、それぞれに対して思い浮かぶ疑問の洗い出しなどを行います。
さまざまなブレーンストーミングを行ったあとにバイアスチェックを行い、ユーザーやプロダクトのイメージを明確化したあとは、リサーチとテストに移行する前段階としてネームストーミングを行います。
ネームストーミングはプロダクトに名前をつけるプロセスです。その後の検証では、ユーザーとのコミュニケーションやウェブサイト制作など、プロダクト名が必要とされる機会が増えるため、このときが商標の登録などを行う良いタイミングでもあります。
これらのプロセスを経て、ユーザーフィードバックの収集や、実現可能性の検討、実用最小限の製品(MVP)の検証、プロダクトローンチへと移行していきます。
さまざまな観点から、ユーザー象や課題、疑問点を洗い出し、バイアスチェックを経て得た、プロジェクトの核心に迫る最も重要な問いに対して、答えを見つけるのが初期のユーザーリサーチです。
必要に応じて数回リサーチを繰り返しますが、設定した問いに対する答えがコンセプトとして定義されます。そして、コンセプトやコンセプトに基づいて開発されるMVPの検証のために再度リサーチをし、コンセプトがユーザーのニーズに沿っているか、MVPがニーズを満たすものになっているかを検証します。
ユーザーリサーチで良く使われる手法には、下記の3つがあります。
デプスインタビューは、1対1でユーザーに質問をしながら、その回答内容や反応を観察する特徴があります。オブザベーションやホームビジットは、ユーザーの特定の行動や日常を観察するのが特徴です。
たとえばオブザベーションでは、コーヒー関連のプロダクトを開発するために、実際にコーヒーメーカーを使っているところを見せてもらい、操作手順などを観察します。プロダクトがローンチされたあとも、自分自身がその場で体験をしたり、周囲のユーザーを観察したりすることがあります。
ホームビジットは、自宅を訪問して冷蔵庫に普段なにをどう入れて管理しているのかなどといったプライベートな領域まで一歩踏み込んで見せてもらうことで、本人さえも気づいていない課題やニーズを探るリサーチです。
このように、デザインリサーチでは、ビジョンセッションによってコンセプトを明確化し、具体的なユーザーリサーチの手法を見定め、プロトタイプによる検証を行い、その結果をもとにプロダクトのスケーラビリティを判断していきます。
デザインリサーチャーを簡単に言い表すと「ユーザーが欲しいものを創るためにリサーチを行うエキスパート」と言えます。この役割は、経営者やその周囲にいる誰かが兼任で行っていることがありますが、ユーザー視点で物事を発信する役割を専任することには意味があります。
山岸「スタートアップ企業にはデザインリサーチャーがいないことも珍しくありません。そして、スタートアップが上手くいかなかった理由として多いのは『プロダクトに対するニーズがなかった』です。デザインリサーチャーは、常にユーザーを中心に考え、目的に合わせたリサーチを行い、結果を客観的に分析して、ユーザーのニーズや課題にフィットするプロダクト開発の成功を支援します。ユーザーのニーズや課題に合致しない方向へプロジェクトが進みそうであれば、事業方針のピボットを提案することもあります」
相山「ピボットは、サービスの目的を変えずに戦略や手法を変えることを意味します。有効なピボットを行うためには、①目的を明確にしておくこと、②手法にとらわれないこと、が重要です。私たちリサーチャーは、目的を明確にするためにアイデアオーナーやチームのビジョンを言語化するサポートを行います。Moonでは、新規事業の立ち上げの際にプロジェクトチームでビジョンセッションを行い、サービスの目指す先を定義し、共通理解を得ています」
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