GORIL(ゴリル)は、ユーザーが発した音を可視化する新しいタイプの英語の発音学習プログラム。8月にWebアプリ「GORIL48」をリリースしました。声を出すと二次元のキャラクターの口や舌が音に合わせて動き、正しい発音を、的を狙うようにして視覚的に捉えながら調整できるのが特徴です。そのアイデアが生まれたきっかけは?
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吉田:アイデアの原型を思いついたのは1997年ごろです。大学時代に米・ウィスコンシン州にある大学へ交換留学したものの、半年経っても英語の発音が向上せず、自信をもてない日々が続いてました。
また、聞き取りも上手くできないので授業でノートを取ることもできず、頑張って話しても「今なんて言ったの?」と言われて萎縮してしまうばかり。
英語自体には中学時代から興味を持っていました。高校時代まで甲子園を目指して年末年始もなく練習をしていたような野球一色の人生でしたが、野球以外で唯一興味を持っていたのが英語でした。英語を使いこなせれば、いずれ世界が広がるはず、そう漠然と考えていたからでした。
高校2年生のときに、オーストラリアから交換留学生が転校して来た際、同じクラスだった私は彼の世話係を任されました。最初、彼はほとんど日本語を話せなかったので、私は和英、英和両辞典を抱えながら1年間一緒に学校生活を送りましたが、それまで日本人の先生にしか英語を教わっていなかった私は、正直、彼の英語にとまどいました。
例えば、FoodとHoodの違いについては、まったく聞き取れなかったんです。何十回も彼に発音してもらい、もう勘弁してくれと言われるほど繰り返しましたが、結局わからずじまいでした。そしてこの問題が、アメリカ留学時代により顕著になったんですね。英語で話したいことをきちんと組み立てるということはもちろん難しいのですが、そもそも何と言っているのかを自分の発音を通して理解してもらうことにも問題が生じていたんです。
この課題は、ペーパーテストのスコアとはまったく異なる領域の問題でした。そのときにどうすればいいのかを試行錯誤して考えた結果、あるときGORILの原型となるアイデアを思いついたんです。
アメリカへ留学して半年後、英語の発音が向上せず悩んでいたとき、私は同級生に教えをこいました。その同級生は、ESL(English as a Second Language)を専攻していて教師になることを目指していたので熱心に教えてくれました。そのときは、ネイティブスピーカーの発音を聞かせてもらうことに加えて、自分の発音もチェックしてもらいました。
「ガール、ガール、ガール」
「Girl、ガール、Girl……」
「今のは良いよ」
「今のは違うよ」
あるとき、練習中にふと同級生の口元を見ながら、口の形、舌の動き等の筋肉の動きをイメージしはじめたんです。「今のは良いよ」と言われたときに、そのときの口の形、舌の動きを意識するとマネできるようになって、急に「良いと言われた発音」を再現できるようになったんです。
次第に、他の音も同様に似た音が出せるようになって、単語にもどんどん転用できるようになって、自分の英語を聞き返されることが少なくなりました。最終的には、「発音上手だね、どこで習ったの?」と言われるようにもなって、徐々に自信がついて、積極的に話したいという気持ちが湧いてくるようになりました。
そのころから、もしかしてこの方法を使えば、ほかの人の英語の発音も改善するかもしれないと考えるようになったんです。
三井物産に入社以降、物流畑での仕事が多かったのですが、2015年にシンガポールにある港湾運営会社へ出向しました。当時、同じく出向中の同僚が「英語の発音を改善したい」とのことで、大学時代のことを思い出し、今度は自分が先生、彼が生徒で、同じやり方を試してみたんです。
ところが、「口の開き、舌の位置、使い方などをイメージしながら音の出し方を調整してみて」と言っても、彼には「イメージする」の意味が伝わらなかったんです。
結局、何度挑戦してもうまくいかなかったんですが、彼から「吉田さんの言うイメージが、もっと明確に見えたら、自分にもできるような気がします」と言われて、悶々とする日々がスタートしました。
当時経営にあたっていたシンガポールの港湾事業運営会社では、次世代の新しいビジネスをどう創造できるかというテーマでタスクフォースを組んでいたのですが、幸運なことに、Moonと共にアイディエーションを行う機会を得ました。
我々は新しいアイデアの出し方すらも、よく分かっていませんでしたし、経験もありませんでした。Moonと一緒にタスクフォースメンバーがアイディエーションを進めるにあたって、だんだん、Moonのアプローチの斬新さに心を惹かれるようになっていったんです。
そのときに、この会社でなら「発音を見える化するという」アイデアも、具体化できるかもしれないと思ったんです。それが2020年の秋ごろのことでした。
幸運なことに、当時の上司含めて、Moonへの挑戦について周囲の賛同を得て、2021年3月2日にピッチをしました。
Moonには様々な専門人材がいますが、今も一緒にプロジェクトを担当しているデザインリサーチャー、山岸卓矢(やまぎし・たくや)がこのプロジェクトをゼロから支援してくれました。当時行ったリサーチの結果、すでにスピーチセラピーの業界では、発音改善用に開発された3Dのモデルが存在することがわかりました。
実はこの3Dのモデルが、米国留学時代に同級生の口の中の筋肉の動きとして自分が想像していたイメージに近かったんですが、ユーザーには複雑過ぎたのかなかなか伝わらず、正直、本当に驚きました。
勿論、私自身、この3Dモデルにこだわりがありましたし、協力してくださっていた言語学者の方々も、立体表現が良いとお考えの方もおられたのですが、ユーザーの皆さんの反応は違ったんですね。結局、どうマネをしていいかが、直感的に分からなかったんだと思います。
これまで200人近くの方々にお話を伺い、100人近くの方にワークショップやレッスンを実施してきました。自分の口の開き具合、舌の位置が今どうなって音を出しているのかを、もっと直感的に理解できる仕組みが必要だと考えるようになりました。その結果、口の開き方と舌の位置が大まかにわかる二次元のインターフェースを中心に考えるようになり、現在のプログラムの形へと発想が変遷していきました。
また、同様の考えに基づいて、Hot(/ɑ/)とHurt(/ɚː/)の母音の発音で、左右にパドルを動かせるピンボールゲーム等も開発しています。
>>GORILを試す
このインターフェースは、フォルマント周波数を用いて二次元の座標へ出力する仕組みで、音の特徴を客観的に捉えて座標に示すことで、口の動きを逆算して、マネをしやすいように工夫して表現しています。
音を感覚的にどう理解しているかは人によって異なるでしょうから、こうした単純化が分かりやすかったのだと思います。また、音を理解して発音すると一口に言っても、すぐにマネできる人と、そうでない人が当然いるわけです。もちろん、聞くことだけをとっても、多くの要素に分けて聞き取る人と、そうでない人がいます。
ある方の頭の中では、音に色がありそのグラデーションがあるかのように見えるようです。しかし、それを言葉で伝えても、相手にはなかなか伝わらないかもしれません。伝える相手が、同じ感覚をもっているとは限りません。シンガポール時代の私と同僚のやりとりも同様のことが起きていたのでしょう。
でも、面白いことにGORILを使って英語の発音を練習すると、発音を共通の目標(的)に向かって口を動かすという単純な運動に変えることができて、1回運動として覚えたら、鉄棒で逆上がりをすることや、自転車に乗るのと一緒で、なかなか忘れないものなんですよね。
これまでGORILを試してくださった100人超のみなさんには、おおむね効果が確認できたことから、こうして客観的に見せることさえできれば、どなたでも理解でき、英語発音に関する新しいマッスルメモリーをつくることができるんだと、今では確信しています。
2021年のピッチではシンガポールに長くいたこともありシングリッシュが全開だったので、「サトシの英語は特殊だよね!」と一部のコミッティからツッコミが入ったんですが、英語にはそもそも色々な発音があるものです。
GORILはまずアメリカ英語からスタートしますが、将来的にはイギリス英語、オーストラリア英語、シンガポールの英語など色々と挑戦してみたいです。また、すでに日本語の見える化は一部できているのですが、日本語や英語以外のさまざまな言語の見える化の可能性も、充分にあると考えています。
GORILは、2023年4月にiOSアプリ(ベータ版)を、8月にはWebアプリ「GORIL48」をリリース。イベントの開催やラジオ番組への出演、独自のポッドキャスト「GORIL発音部(Spotify, Apple Podcast, Google Podcasts)」のスタートなど、精力的に英語の発音について発信を行っています。
今後は、親子で発音を学べる英語学習支援ツールや、単語のみならず、文章の見える化にも挑戦しています。将来的には英語だけではなく世界中の言語の学習への応用も視野に入れています。最新情報は、GORILの公式ホームページやTwitter、Moon Stories Blogでぜひご確認を。
アイデアが生まれたきっかけのほか、GORILの言語学習機能がどのような可能性を持っているかや、母音と子音の仕組み、カタカナがいかに活用できるかなどについては、また追ってブログで紹介する予定です。
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