Venture Stories

悪戦苦闘を達成の糧に|働くママをエンパワーする「Inna Circle」

2024/02/14

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Inna Circleの共同創業者 左からグレース・アルダス、デル・デラトーレ

 

※このブログは、Moon Creative Labのシニアデザイナー、チユン・イェが執筆しました。


Moonのベンチャー「Inna Circle」は、フィリピンでママになり様々な苦労に直面した2人の女性、グレース・アルダスとデル・デラトーレによって創設されたオンライン育児マッチングサービスです。

ふたりは、フィリピンと南アジア全域で、子育て中に生じる共通の葛藤に対処するためのコミュニティを探し、自分たちを含めたママの子育て支援のために、「Inna Circle」を創設しました。

今の時代、ママになることは本当に難しいことです。フルタイムの仕事と家庭の両立はそう簡単にはできません。新米ママだったグレースとデルは、自分たちのキャリアと子供たちに対する適切なケアを天秤にかけたくないと考えていましたが、三井物産社員として働きながらコロナ禍でまさにそうした苦境に立たされていました。

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デル・デラトーレ

職場の定例会議に出席して、日々の仕事をこなし、子供の家庭教師をしながら、「Inna Circle」に取り組むための時間も確保する――そのすべてをこなすことは、ふたりにとって現実的ではありませんでした。

デザイナーの私がMoonで「Inna Circle」のチームに加わりインキュベーションを開始したのは、ちょうどふたりが困難に直面していたときでした。当初のアイデアは、働くママをサポートする製品やサービスを開発し、育児と仕事を両立しようとするときにかかるストレスを軽減しながら、安心感を与えようというものでした。最初に焦点を当てたのは、仕事に集中することと育児とを両立するための、心穏やかにいられるバランスを見出すことでした。

 

問題にどう向き合ったのか

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左から、デル・デラトーレ、リンダ・キニング、チユン・イェ、グレース・アルダス

Moon Creative Labへの参加も、0→1でプロダクトをつくり上げることも、グレースとデルにとってはユニークでチャレンジングな経験でした。普段の仕事とはまったく違う考え方、働き方、ビジネス環境の変化に、素早く適応しなければなりませんでした。チームが働く時間帯も、タイムゾーンが異なるため、時間を賢く管理することにも課題がありました。

プロダクトの定義にも課題がありました。私たちは当初、ママたちが自分の時間を確保できるよう、託児セッションを提供することをコンセプトにしていましたが、すぐに実現が難しいということに気づきました。マニラで3日間の育児ポップアップを実施してテストを行ってみたところ、空間の構築にかかる時間とリソースが大きすぎたのです。とくに他の選択肢としてデジタルプロダクトを想定した場合と比べれば、その違いは顕著でした。

チームはアプローチを見直し、ママたちにとってもっとも切実な願望だった「育児と仕事の両立」へ焦点を当てることにしました。

 

自らが顧客になる

チームはこの結果を受け、プロダクトに関するアイデアを再構築し「必要なときにいつでもチャイルドマインダー(*)を予約できるデジタルプラットフォーム」という新しいプロダクトアイデアに辿り着きました。


*チャイルドマインダー:英国スタイルの、プロの在宅保育スペシャリスト。保育士は幼稚園や保育園で、ベビーシッターは依頼者の自宅で子供を預かるのに対して、チャイルドマインダーは自分の家で子供を預かる。――デジタル大辞泉より


しかしながら、そこには「フィリピンの既存保育サービスとの差別化」という課題もありました。ユーザーインタビューを行うと、多くの回答者がすでにチャイルドマインダーの利用経験を持っていました。一方で、品質には不満がありました。

ママたちは多くの場合、チャイルドマインダーが十分な教育や必要な資格を有しておらず、その職へ就くにふさわしい専門家ではないと考えていたのです。これは「Inna Circle」のサービスを市場でどのように位置づけるのかについて、貴重なインサイトを得た発見でした。

これからプロダクトが向かおうとする方向へ全面的にコミットする前に、グレースとデルは、自分たちがサービスを利用するユーザーとなり、また、サービスを提供するチャイルドマインダーにもなってテストを行いました。その結果、ママたちは満足感を示し、大事な仕事に集中できるようになったという評価を得たのです。

 

国際的なグロースへの挑戦

もっとも大きな課題だったのは、「Inna Circle」がMoonにとって日本以外での初のベンチャー企業であり、サービスに対して対価を支払うユーザーを抱えていたことでした。チームが正式にサービスを開始する際にぶつかった壁は、決済のビジネスモデルに関する複雑な法律の問題でした。

そこには、語り尽くせないほど根気のいる工程がありました。本当に大変でしたが、最終的には努力とコミュニケーションを続けて何とか切り抜け、ついにマニラで「Inna Circle」を立ち上げる準備が整いました。国際的なビジネス・ライセンスの取り扱いや、将来グローバル・ベンチャーを支援する方法について、貴重な教訓を得ることができました。

 

どんな学びがあったのか

迅速なテストと意思決定、アジャイルなピボットといった経験は、グレースとデルだけでなく、チーム全体にとって貴重な学びでした。デザイナーの私は、ユーザーテストの重要性を学び、必要なときは方向転換を前向きに検討できるようチームの背中を後押ししました。

グレースとデルは、ユーザーと直接関わることの重要性、人間中心のアプローチの採用、素早く繰り返すことや、うまくいかないときにはピボットする大切さを学びました。ふたりは、フィリピンのスタートアップ業界とつながり、将来的にビジネスパートナーとなり得る人々に関わっていくため、自らをコンフォートゾーンの外へと押し出し続けました。

私にとってもグレースとデルとともにビジネスを立ち上げたことは信じられないほど貴重な学びと経験になりました。ユーザー(ママやチャイルドマインダー)と直接交流したり、限られたリソースのなかで手探りで実験をしたり、いわゆるスタートアップ環境を走り抜いてきました。

その結果、私たちは目標を達成してユーザーから多くのことを学ぶことができました。そのプロセスには、継続的な学習、テスト、ピボット、迅速に構築すること、市場の検証などが含まれています。そこでは、何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのか、そこにある障壁がなんなのかなどを特定し、助けを求めることを恐れず正直であり続けることが極めて重要でした。

「Inna Circle」は、他企業にとっても学びのある、理想的なベンチャーのモデルだと私は考えています。月間120件以上の予約が発生しており、その数は現在も増加中です。チームは8月末に新しいランディングページを立ち上げ、予約プラットフォームへのアクセスも改善。ユーザーとチャイルドマインダーの数も増加しました。

 

次のステップは?

「Inna Circle」は、フィリピンでビジネスを成長させている最中です。次の大きなステップは、フィリピンの大企業(従業員2,000人以上)とのB2Bコラボレーションです。詳細については、theinnacircle.comをご覧ください。また、Facebook や Instagramでも情報を発信していますので、ぜひフォローをお願いします。

 

Key Learnings

  • ベンチャーのスタート時は迅速なテストが必要
  • うまくいかない時は「繰り返す/ピボットする」
  • ユーザーテストが進むべき道を切り拓く

 

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文・チユン・イェ/シニアデザイナー

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