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カルチャーフィットではなく“アド”を目指す スタートアップへの挑戦から得た学び|Moon Alumni Interview

2023/03/24

三井物産からMoon Creative Labへ出向し社内起業を経験したのち、三井物産に戻って活躍されている方々にお話を聞くインタビュー。今回は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関連したイベントを次々と成功させる、平岡杏菜さんにお話を聞きました。彼女がMoonでのスタートアップ体験で学んだこととは?

 

目次

  1. デザインリサーチで気づいた自分の強み
  2. ぬり絵プロジェクトで社員をつなぐ
  3. ビジュアライズを武器にカルチャーを醸成
  4. ピボットの経験が推進力に

 

1.デザインリサーチで気づいた自分の強み

平岡さんは現在、三井物産人事総務部ダイバーシティ経営推進室に在籍し、これまでさまざまなインハウスイベントを手がけています。

三井物産ではウェルネス事業部で医療事業の投資案件に携わったのち、2018年10月から2021年9月までの3年間、Moon Creative Lab(以下、Moon)に出向、ヘルスケアスタートアップに注力しました。その後、事業ピボットやパンデミックの影響で三井物産ウェルネス事業部へと戻り、2022年4月に人事総務部へ異動しています。

Moon出向直後から、デザインコンサルティング企業のIDEOと共同でビジネス創出のためのデザインリサーチに取り組むことになった平岡さんは、最初の会議でビジュアライズが自分の得意分野だと気がついたと言います。

 

「IDEOのメンバーにとって絵を使った議論は日常でしたが、日本企業出身の私がそのやり方に違和感なく馴染んでいることに驚いていました。それでハッとしたんです。もしかしたらこれは私の強みなのかもしれないと」

 

平岡さんはMoonに出向する前から、注意事項や気づいたことなどを、ポストイットに絵や文字で描き表し、デスクに貼る習慣があったそう。このため彼女は、現在も自宅で自分用のボードを購入し、常にそこにアイデアを貼ると言います。理由は、それが一番考えていることを表現して整理しやすいから。

IDEOとの業務のなかで、このスキルをさらに磨いた彼女は、今も会議ではグラフィックレコーディング*を活用して情報をまとめているほか、デザインツールを使ったウェブページの構成、ステッカーデザインのディレクションなど、さまざまな形でビジュアライズに携わり、社員同士が直感的にコミュニケーションできるようサポートしています。

 

*グラフィックレコーディング:打ち合わせや講演などの内容を、文字やイラストでリアルタイムで共有しながら記録することで、課題の発見や議論の活性化を図る手法

2.ぬり絵プロジェクトで社員をつなぐ

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当時の本部の戦略を図にした「塗り絵プロジェクト」の貼り紙。

彼女のビジュアライズによるコミュニケーションの成功例の一つが、Moonから三井物産ウェルネス事業本部へと戻ったときに企画したぬり絵プロジェクト「Color our Vision」です。本部内はコロナ禍の影響で、以前のようにオフィスに集まることが減り、社員同士が知り合う機会が減少し、本部の戦略やコアバリューが社員に浸透しにくい状況でした。

仕組みは簡単です。本部の戦略を図にして壁に貼り、息抜きにぜひ塗ってみてくださいと案内しただけ。当時はパンデミックの影響でフロアに人がほとんどいない時期でした。コーヒーチャットよりもずっと気軽に参加できたこともあり、1ヶ月後にはたくさんの色が塗られました。誰がどこにどう色を塗ったのかに個性が現れ、今まで話したことのない社員同士が会話を始めるきっかけにもなりました。企画の反響は良く、その後も継続されたそう。

また、コアバリューを理解し実践している本部員を賞賛する企画も考えました。「Acknowledge Month」と名づけ、5つのバリューをステッカーとしてデザインし、バリューを体現している社員に具体的な賞賛の内容を書いて贈る取り組みです。このメッセージの内容も部内で共有されやすく、部員同士の新たな会話のきっかけになったそうです。

こうしたビジュアライズの成果は、そのほかの活動にも良い影響をもたらしました。たとえば社員同士がおしゃべりする場「Pecha-Kucha」の企画では、ぬり絵プロジェクトをきっかけにして出会った絵のうまい社員や、華道の資格を持っている社員などに声をかけることができ、趣味の話を盛りあげました。

ユニークな企画を連発した平岡さんは、「もっと活動する領域を広げてはどうか?」と上長から提案されるようになります。平岡さんが得意とする企業文化を醸成する力は、今後も社に必要な重要な役割だと認識され、人事総務部であればその力を発揮できるだろうと背中を押してくれたのだとか。

平岡さん自身、さまざまな個性や背景を持った社員が活躍できる環境づくりのサポートに注力したいと考えており、「クリエイティブ、そしてインクルーシブな環境醸成をすることで一人ひとりが輝けるような未来づくりの実現」というビジョンを掲げていました。その想いを持って、2021年12月に人事総務部へ自分を売り込みます。Moonでプロジェクトを立ち上げたときと同じように自ら「ピッチ」をし、翌年4月に同部内にあるダイバーシティ経営推進室に異動が決まりました。

3.ビジュアライズを武器にカルチャーを醸成

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国際女性デーでは社内にいる賛同者の数をステッカーで可視化した。

異動直前の2022年3月には、国際女性デーのセレブレーションイベントをMoonのメンバーと共同で開催。ブースをつくり、賛同者に指定場所へステッカーを貼ってもらいました。これによって、社内にどれだけのサポーターがいるのかひと目でわかるように。

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開催メンバーとの集合写真。来訪者ともポーズを取って写真撮影し、ボードに貼り出した。

来訪者には「あなたがインスパイアされた身近な女性は誰ですか?」と聞き、ホワイトボードに名前を書いてもらいました。また、国際女性デーが掲げたその年のテーマ「BreakTheBias」の持つ、偏見を打破するイメージを形にした手を交差する共通のポーズで写真を撮り、それを100枚近く壁に貼り出しました。このブースへの来訪者にはテーマカラーだった紫色のマスクもプレゼント。この紫色のマスクは、オフィス内でもとても目立ったことから、制作費用が10万円ほどにもかかわらず、周知に大いに効果があったといいます。

同時にブースでは積極的に写真を撮影し、自分の持っている偏見に気づく大切さを共有するためのハッシュタグ「#BreakTheBias」とともに、社内SNSで共有していきました。

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平岡さんがデザインを考案したD&Iがテーマのステッカー。恐竜の形に構成された図形を七色で表現した。

6月は「Pride Month」に合わせて、Moonのメンバーと共に、LGBTQIA+やAlly(理解・支援する人)とは何か、今日からAllyとしてできることは何か、を考えるトークイベントを開催しました。

このイベントをきっかけに、彼女自身がデザインしたレインボーカラーの恐竜が描かれたステッカーを作成しアピールしたこともありました。この意図について平岡さんは「カタチにして表すことが大切です。どんなイメージであれ、目に見えるので認識してもらいやすい」と強調します。

9月には、全社イベントであるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)ウィークの企画・開催をリード。D&Iの促進のツールとして「シェアドリーダーシップ」をテーマにワークショップを開催。シェアドリーダーシップとは、人によって異なる強みや、力を発揮する場所、タイミングを柔軟に捉え、力を発揮できるときはリーダーになり、そうでないときはフォロワーとしてサポートにまわることで、組織のだれもがリーダーとフォロワーシップを発揮する考え方のことです。

ワークショップには、25ヶ国から500人近い参加者が集まりました。ここでは、社内用の特設Webページをつくり、立教大学で行われている研究の内容や、三井物産で活躍する社員のインタビュー記事をつくって紹介しました。

ワークショップでは、シェアドリーダーシップがどういうものかを、参加者の最近の行動を例にして分析することで、共通理解を深めていきました。これも一言では言い表せない考え方などを可視化する方法の一つです。

平岡さんはビジュアライズの能力をベースにして、スモールスタートで次々とアイデアを形にしながら周囲を巻き込み、社員のエンパワーメントを実行していきます。その推進力には、Moonのコアバリューや、スタートアップでの度重なるピボット経験が大きく関係していると言います。

4.ピボットの経験が推進力に

Moonに出向当初はワクワクの連続だったという彼女。当時は、AIによる疾病診断ができるようになるサービスの開発に携わり、さまざまな分野のエキスパートに囲まれてインスピレーションを受けながら、3ヶ月に1度のペースでおおまかな投資判断が行われるスピード感のなかリサーチとレポートを繰り返します。

 

「PDCAの“D(Do)”がとても重要でした。自分の肌にも合っていました」

 

デザインリサーチに携わりながらさまざまな経験を得られた一方、事業方針のピボットも経験しました。

彼女はMoonに出向後、ビジネスモデルを拡張するため、ペット用オンライン診察のプラットフォーム開発を新たに提案しました。ところが、アメリカで行ったリサーチなどを通じて、ユーザーニーズの確認もでき、学会の権威や獣医の協力を得られたにも関わらず、法的な制約などから、獣医とペットオーナーによるオンライン診察のテストができませんでした。加えて、直後にパンデミックの影響も受けたことで、プロジェクトの継続は困難となります。

その後は、人間を対象にしたAIによる疾病診断サービスの開発に業務の軸を戻し、リモートでできることを探すことになりますが、日本で研究に必要なオペレーションの構築やその運用管理などを続けたものの、オンラインでできることの限界もありました。動きたくても動けない……。このときが心理的に一番つらかったと言います。

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アイデアオーナーとしてプロジェクトを自らリードしていく際に感じた孤独や、ピボットの心理的な負担から、平岡さんのなかで社員一人ひとりのサポートに対する意識が強くなっていきました。結果的に、組織開発やD&Iの重要性に意識が向き、人事総務部ダイバーシティ経営推進室への異動を希望することになります。

こうした挑戦の連続を前向きに捉えられるようになったのは、つい最近のこと。今の部署に異動してからだったと言います。

 

「つらかったときの自分を思い返すと、最初から一つの目標にこだわりすぎていたと感じます。目的に集中して、失敗を後悔するのではなく、変化から学べることを祝福し、次に繋げることが大事です。一度や二度のピボットではそんな考えには思い至りませんでしたが、今はスタートアップでの経験が推進力になっていると実感します。少し大人になれたのかもしれません」

 

目標への思いが強ければ強いほど達成できなかったときの痛みは大きくなる、自分が感じている課題が会社にとっても優先事項であるとは限らない、それでも落ち込まずに目の前の学びをどう生かすかを常に考えている、と平岡さんは続けます。

 

「Moonの5つのバリューから学んだことは常に意識しています。たとえば『experiment fast』。小さくすぐに始めることが大事。反響があればスケールできます。それから『stretch your comfort zone』も。会社は少しずつ変わっていきますが、そのスピードに引っぱられていてはいけないと思っています。カルチャーフィットではなくカルチャーアドを目指したいですね」

 

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