三井物産からMoon Creative Labへ出向し、キャリアナビゲーションツール「Pioneer Guild」を開発するEIR(社内起業家)の成原 大敬(なりはら・ひろゆき)にインタビュー。これまでチームが行ってきたキャリアマッピングとメンタリングの実験に関することや、プロダクトローンチの裏側、ユーザーからのフィードバックと専門家のネットワーキングの活用法などについて話を聞きました。
――「Pioneer Guild」について教えてください。
成原:「Pioneer Guild」は、ユーザーのキャリアパスをマッピングできるような新しい体験を開発しているベンチャーです。
これは、ユーザーのキャリアの現在地や、数年後の目標に向かって進むべき道を示せるGoogleマップのようなもので、目的地までのさまざまな経路が表示され、ズームアウトして全体像を把握できたり、ユーザーは王道となる高速道路的なルートだけでなく、マイナーな裏道、渋滞が起きている(競争率が高すぎる)ルートなどを確認したりすることで、どのルートが自分にとって最適か、最速か、または最も手間の少ないルートかを見極められるようにしたいと考えています。
また、このサービスのユーザー(私たちは「エクスプローラーズ」(探検家)と呼んでいます)は、自身が思い描いている未来をすでに経験したことのあるベテラン(「キャリアパイオニア」と呼んでいます)に相談することもできます。キャリアパイオニアは、過去にキャリアチェンジを経験した先輩たちですので、キャリアパスに関するインサイトや、経験した人のみが知る情報を共有してくれます。
私たちは最近、このエクスプローラーとキャリアパイオニアをマッチングするための実験を行い、多くの学びを得ました。
――実験の具体的な内容を教えてください。
成原:昨年末に立てたいくつかの仮説があったので、その検証のために1週間ほどでウェブサイトを作成し、その後1週間でユーザーとのメンタリングプログラムを実施しました。わずか2週間でしたが、金融業界出身で現テクノロジー系スタートアップ社員の方と、同様のキャリアシフトに関心のあるエクスプローラーをマッチングすることができました。
実験を非常に迅速に実行できたのは、過去数か月にわたって構築してきた人的ネットワークのおかげでした。どのような状況でも、人と人とのつながりは最も強力なものです。
また、成功体験と同時に課題もいくつか見えました。
一つは、私たちのウェブサイトが最初ほとんどのユーザーからかなり強く疑われていたことです。原因を考えると、業界で頻繁に見かける用語、たとえば「転職」「キャリアアップ」「ワークライフバランス」といった言葉を使っていたため、警戒されてしまった可能性があり、ほかの転職エージェントや求職サイトと変わらないと思われていたようです。結果的に、ユーザーからの反応が思うように得られませんでした。
そういった気づきもあったため、私たちは実験の途中でユーザーへのメッセージングを調整することにしました。ユーザーを「お客様」として扱うのではなく、素直に実験的なプロダクトを試して評価してほしいというスタンスで接することにしたんです。結果的にその方が積極的な反応が見られました。後のインタビューでも、多くの人が、なにか新しいことに参加することや、同じ志を持った人々が集まるコミュニティに参加できて嬉しいと話してくれたんですね。基本的にはだれもが周りの人を助けたいと思っている、という大事なことを思い出させてくれた出来事です。
私のなかでとくに大きかった学びは、ファウンダーとして、実験を通じて創造的なプロセスに参加してもらえるよう、人々をコミュニティに引き寄せる努力をすべきだということでした。潜在的なユーザーに理想的なメンタリングサービスについて尋ねたら、私たちのアイデアよりもはるかに独創的で洞察力に富んだアイデアがたくさん出てきたんです。彼らは私たちが今後どうプロジェクトを進めていくべきなのかを教えてくれました。今後はより多くの人に耳を傾けながら共創していくことにもっと力を注ぎたいですね。
――メンタリングプログラムがなぜ人々の助けになるのかや、具体的にどのような助けになるのかを教えてください。
成原: 同様のサービスは世界中にたくさんありますが、ほとんどのサービスには大きな欠点があります。調査中も、ユーザーから何度も同じ悩みを打ち明けられました。
たとえばキャリアコーチを例にすると、セラピーのようなトーンで夢のような話ばかりするものもあります。そうしたやり方も、長期的な目標を見出したり、動機を深く掘り下げたり、無意識につくってしまったできない理由や苦手意識などを特定する方法としては適しているのかもしれませんが、より実践的で短期的な目標の設定に必要な学びが必要とされています。
また、リクルーターは目先の目標を重視しやすく、クライアントの学びや将来を必ずしも念頭に置いているわけではありません。結果として、利益相反が生じることもあります。リクルーターはコミッションを受けとるため、実際にはニーズに合っていないキャリアパスとわかっていても、案件を完了させてしまう場合があります。
「Pioneer Guild」は、これまでとは異なるアプローチを採用し、エクスプローラーが客観的なデータに基づいてキャリアパスを決められるよう支援したいと考えています。これは、キャリアパイオニアの経験とインサイトをもとにした脈絡のある提案であり、インスピレーションを与えると同時に、十分な情報に基づいたキャリア選択を可能にしたいのです。
――ご自身にもメンターがいるのでしょうか?または、だれかのメンターをしている?
成原:どちらもです。私にとってはとても価値のある時間ですね。認定キャリアコーチと定期的にセッションを行い、多くのメンターに相談するなかで、問いかけ、問いかけられる過程を通じて、自分自身をより明確に見つめ直すことができます。私のコーチやメンターは、専門能力開発について客観的な視点を与えてくれる鏡のような存在です。
とくに、東京のスタートアップのファウンダーコミュニティは比較的小規模で結束が強く、メンターを探すにはぴったりだということがわかりました。私たちは頻繁に会い、お互いのメンターとしていろいろな話をします。0→1のフルスクラッチで起業することを考えたときには、たくさんのスマートでダイナミックな人々からのアイデアを反映できるのはすばらしいことです。
――キャリアマッピングとメンタリングに対する需要は?
成原:とくに日本での需要は高いです。日本がグローバル市場での競争力を回復するには劇的な変化が必要であることは明らかです。若い世代はこれをよく知っていますが、私のような中年の世代はそれを受け入れるのに苦労しています。
仕事の本質そのものが変化していて、中長期的なキャリア目標と、その目標を達成する方法について、だれもが考え始める必要があります。しかし、あまりにも多くの人が、現在の役割に満足しており、将来を築くために積極的なアプローチをとっていません。
今後は日本でも、在籍している会社内外でのキャリア採用、ハイブリッド化、働き方の多様化がより重視されるようになり、雇用の流動性が高まると思います。調査によると、多くの日本の若者が職業上の独立を夢見ており、彼らはその夢に向かって歩みを進めています。
近年、フリーランスのマッチングサービスや分散型C2Cマーケットプレイスの成長が見られ、起業を希望する人々の障壁が軽減されています。「Pioneer Guild」は、この革命の一部であり、仕事がより流動的になり、スキル開発が自主的に行われ、人々が組織を超えて働くことができる社会を目指しています。
私たちの夢は、やりがいを感じられるキャリアへの道筋を民主化し、若い世代を専門家と結び付け、専門的で職業的なギルドを構築することです。若い世代は、キャリア目標の達成に必要なガイダンスを見つけるための、より良い方法を探しています。こんな変化を世界に起こしたいです!そう考えています。
――起業したい人に対してEIR(社内起業家)としてアドバイスするなら、どんなことを伝えたい?
成原:正直なところ、私もまだ学習中です。多分みんなそうでしょう。私が言えるのは「始める前にあきらめないでください」ということ。私のような家族もちの中年サラリーマンが起業できるなら、あなたもできるはずです!
私は最近、LinkedInの共同創設者、Reid Hoffmanの「The Startup of You」というすばらしい本を読みました。この本では、客観的に自己評価を行い、自分の願望、特定のスキルや経験のマーケット、資産、負債、リスクなどを分析して、自分をある意味、企業のように扱う必要性について語っています。私もそれは最初のステップだと思います。
一般的なイメージとは違い、起業が絶対的にリスクの高いものと決めつける必要はないと思います。生活を合理的に調整しながら、想定できる範囲内のリスクを取る必要はありますが、フルタイムの仕事をしながら副業で新しいベンチャーを立ち上げることもできます。ただ、賢く効率的に行う必要があるということです。
日本の伝統的な大企業でさえ、副業解禁の取り組みが始まっています。10年前には考えられなかったことです。世界は変化しており、適応へのプレッシャーが非常に高まっています。社会、産業、市場が進化するにつれて、新しい価値の創造はさらに重要になってくるでしょう。
――「Pioneer Guild」は、次にどんな実験を行う予定ですか?
成原:現在、人材紹介会社と協力して、キャリアパスマッピングツールを作成中です。かなりエキサイティングな取り組みです!
求職者は、リクルーターに対して「私の中長期のキャリアプランを理解していないし、できるだけ早くなんらかの仕事にマッチングさせたいだけだ」という感情を抱きやすいのは事実です。しかし、人材紹介会社でも問題意識はあり、質の高いアドバイスを提供するためにどうすればいいかを模索しながら、解決に取り組もうとしています。これは本当に優れたキャリアコンサルタントがクライアントに対して行っていることであり、私たちが現在構築しているもの、そのものです。
私たちは、客観的なデータによってキャリアパスの可能性を提示し、事実に基づいた決断を促して迷宮からの脱出をナビゲートするソリューションを提供したいと考えています。そして、多くの人材紹介会社がこの取り組みに対してかなりの興味を示しています。
最終的には、生活するためだけにキャリアを考えるのではなく、刺激に溢れた満足感のあるキャリアを求められるような、そんな世界を創るお手伝いがしたいです!
2024年4月に更新されたブログ「内発的モチベーションが最大の資産になる キャリア探索マップが生まれた理由|Career Forth」では、彼のアイデアがいかにして生まれたのかについて、成原本人がその背景を詳しく話しています。
また、質問・コメントも成原本人が直接受け付けています。
Pioneer Guild EIR
成原 大敬(なりはら・ひろゆき)
hiro@mooncreativelab.com
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