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個人の成長が巨大なシナジーを生む スタートアップへの挑戦から得た学び|Moon Alumni Interview

2023/07/03

三井物産からMoon Creative Labへ出向し社内起業を経験したのち、三井物産に戻って活躍されている方々にお話を聞くインタビュー。今回は、インド三井物産(株)ムンバイ支店 次世代・機能推進部の部長としてICTビジネスに携わりながら、プライベートの時間を使用して日本のIPビジネスの可能性を探る山中 崇之(やまなか・たかゆき)さんへインタビュー。彼がMoonでスタートアップに挑戦して学んだこととは?

目次

  1. 国内IPビジネスの海外展開をサポート
  2. Twitterに1万超のフォロワーが集まる
  3. 個人のつながりが巨大なシナジーを生む

1.国内IPビジネスの海外展開をサポート 

山中さんの経歴は多彩です。1999年に通関士の資格を持って三井物産に入社後、物流本部で貿易・物流業務に7年間従事。その後、2005年から2年間のインド赴任を経て、2007年から鉄鋼製品本部で7年間、海外営業や基幹システム開発のプロジェクトマネージメントなどに携わりました。その後、メディア事業部へ異動を希望し、2015年から約3年間、CSチャンネルの番組キッズステーションでCOO(Chief Operating Officer)を務めたほか、ワールド・ハイビジョン・チャンネル(BS12)の事業管理・支援を行い、2018年にはゲームを中心としたライブ配信プラットフォーム「Mildom」事業の立ち上げメンバーとして参画。2020年11月から2022年10月までMoonで新規事業創出へ挑戦し、現在はBtoBを中心にICTビジネスを推進するインド三井物産(株)ムンバイ支店 次世代・機能推進部の部長を務めています。

山中さんがMoonで取り組んでいたプロジェクトの名称は「Japan IP Studio」。目指したのは、日本で製作されたコンテンツのグローバル展開をサポートするための知的財産に関するプラットフォームの開発です。このアイデアは、国内の新作アニメをほぼすべて視聴し、自宅地下室には5~6000冊もの蔵書があるという山中さんが長らく温めていた構想でした。

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山中さん「国内コンテンツに関するIPやクリエイティブに関するあらゆるデータを検索可能にし、国内のコンテンツ制作者と、海外でコンテンツを展開したい企業がマッチングしやすい環境をつくろうとしました」

具体的には、国内のコンテンツ制作者に対して海外展開するメリットが判断できるマーケティングデータを提供し、日本のコンテンツを探している海外企業へは目的に合うコンテンツデータの検索や権利獲得をサポート。さらに国内と海外のIPビジネスにおける商習慣の違いを知る存在が二者の間に立つことで、より高い確率で海外の需要に対して国内作品を供給しようというアイデアです。

山中さんの調べでは、国内には少なくとも4万を超える漫画やアニメ、ゲーム、ライトノベルなどの作品が眠っていました。もっとも大きな課題だったのは言語の壁でしたが、作品制作を起点にしてマーケティング施策へと発展することも多い日本の習慣と、マーケティングデータをもとにして作品制作を始めることも多い海外企業の文化の違いなどもありました。結果的に、海外企業は有名コンテンツにしかリーチできず、国内のクリエーターは海外のマーケットニーズを読み取ることができなかったと言います。

この二者のマッチングをシステマチックに実現するため、山中さんは国内に存在する作品ごとの詳細なデータを収集し、検索可能にしようと試みました。それも、各作品の内容や表現がそれぞれの国の文化的背景や法的な規制に合うかどうかも判断できるような繊細な情報管理を目指しました。

山中さんは、これらのデータを約5000作品まで収集しデータベース化、データサイエンティストの協力を得ながら、国内IP所有者やコンテンツを利用したい海外企業と打ち合わせ、検索結果のカスタマイズに取り組みましたが、システムの完成には膨大な時間がかかることが予想されたほか、日本のIPビジネスに詳しいメンバーの不足、パンデミックの影響もあり、コミュニケーションに制約が生まれたことなどがプロジェクトを停滞させる要因になりました。

山中さん「まるで伝言ゲームのようになっていた記憶があります。その後、Moonのメンバーからの助言もあってピボットを決めました。当初は、BtoB向けのマッチングプラットフォーム開発を目指して作品データを集め、コンテンツと企業をシステマチックに結びつけようとしていましたが、IPビジネスの基盤を支えているのは消費者だという本質的な議論を始めた結果、アメリカや東南アジアそれぞれのファンが今なにを望んでいるのかを、私がまず把握しなければならないという結論に至りました。それなら、私個人の頭の中にある国内コンテンツのデータを海外のファンと結びつけたほうが早そうでした。たとえば、ゲームのトレンドがDiscord内の会話から生まれ、マーケティングしていないのにコンテンツがバズることがあります。そういうものを、私自身が情報発信してつくっていったほうが、データを集めてプラットフォーム化するより早いと考えたのです」

 

2.Twitterに1万超のフォロワーが集まる

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山中さんはSNSを利用したビジネスモデルへとピボットを決めました。「Japan IP Studio」のアカウントがファンとコミュニケーションを取りながらトレンドを把握・予測することで、国内コンテンツ制作者への企画提案や、海外企業への国内コンテンツ紹介を、ユーザーと直接コミュニケーションしながら得たトレンドを根拠にして提供しようと考えました。

しかし、ファンビジネスの構築には時間がかかります。山中さんは「Japan IP Studio」のTwitterアカウントを運用開始したものの、短期間で結果を示すことは難しく、Moonでの挑戦は1年後の10月に終了することを決めました。

残念ながらプロジェクトは終了しましたが、SNSアカウントに関しては、運用を個人で継続することに決めました。山中さんは、プライベートの時間をTwitterやブログの更新に割きながら、自費でアカウントのプロモーションを行ったほか、海外のユーザーに向けた国内の作品情報紹介を英語で続け、現在Twitterアカウントは、1万人を超える海外アニメファンがフォローするアカウントへと成長を果たしました。

3.個人のつながりが巨大なシナジーを生む

山中さんは、Moonでのリサーチやその後のTwitterの運用で、個人が成長することの重要性を学んだと強調します。

山中さん「コンサルタントからアドバイスを受けて実際に試してみましたが、聞いた話をそのまま応用して成功するSNS戦略はほとんど存在しませんでした。自分でやってみないとわからないことばかりでした」

たとえば、“広告を打ちすぎるとその後フォロワーが急激に減りやすくなる。では、どれくらいがちょうど良いのか?” といった微妙なさじ加減は、実際にやってみないとわからず、だれにも教えることができない部分だっただろうと山中さんは話します。また、前回と同じように試したとして、同じ結果が得られるとも限りません。

山中さんは、そうした実体験を重ねることで得られるさまざまな状況に対応する個人の力が、将来的にグループ全体へ大きなメリットをもたらすと話します。

山中さん「今はプライベートな時間を使い、Japan IP Studioのアカウントを通じて私個人の社会的な影響力をできるだけ高めようと考えています。だれかが行動して初めてフォロワーという存在が生まれるわけですが、アカウントの影響力をビジネスに100%還元しようとすると、フォロワーが求めていないことをしてしまい、ファンが離れてしまうこともあるでしょう。ですから、まずは個人が影響力を持ったあとで、お互いのメリットになるところをビジネスに生かすのが良いのではないかと思っています。それだけでも大きなシナジーを生み出せる可能性があります」

また、英国国立ウェールズ大学でMBAを、米・ハーバード・ビジネス・スクールでPLD(Program for Leadership Development/リーダーシップ開発プログラム)を修了している山中さんは、巨大なシナジーを生み出す鍵となるのが「アルムナイ(卒業生・同窓生)」というゆるやかな個人のつながりだと続けます。

山中さん「ハーバード・ビジネス・スクールにもHBSアルムナイという卒業生のつながりがあります。みなさんそれぞれの道へ旅立っているのですが、それをゆるくまとめているのがアルムナイという概念です。幸い、三井物産のような総合商社がインキュベーションセンターを持っていることに関心を持ってくださる方もいますので、アイデアオーナーの一人ひとりがプロジェクトについて積極的に情報発信することの意味は大きいと思いますし、その影響は一つのプロジェクトの成果だけにとどまらないと思うんですね。たとえばSNSなら、熱量さえあればだれでも無料で始められます。2023年1月には三井物産の副業規定も大幅に緩和され、三井物産やMoonの外に出て事業を始めたり、別の会社で新しい経験を積んだりする人もいます。私は、5年後、10年後に、三井物産やMoonに在籍している社内起業家とグループ全体が関わりを持つアルムナイがシナジーを生むようになれば、その関係性が大きな財産になるはずだと考えています。私自身そうですが、異動でさまざまな分野の仕事を経験し、その学びを自分の興味のある分野に生かしてきました。異動や転職をしていく人をもっと気軽に送り出すようになると良いと思うんです。それこそホテルのチェックアウトのように、滞在はいかがでしたか?改善点があれば教えてください、ぜひまたいらしてくださいね、それでは良い旅を!と。いくつかの企業ではすでにそのような環境が実現していると聞きますが、まだまだ一般的ではないでしょう。Moonは、三井物産グループ内でそういった環境を促進するために、重要な役割を担っていると思います」

 

「Japan IP Studio」の最新情報は山中さんの運営するTwitterアカウントブログから確認できます。現在、Moon Creative Labで事業創出に取り組んでいるベンチャーの最新情報は、「Moon Stories Blog」で随時お知らせしています。ぜひご確認ください。

 

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