Moon Creative Labの2人のデザイナーに、多様性を尊重したデザインの重要性、インクルーシブデザインによって広がる可能性について話を聞きました。
インクルーシブデザインは、Moonがベンチャーを支援する際に常に考慮しているデザイン手法の一つです。
Moon Creative Labでは、「Be Human Centered (人間中心)」という行動規範のもと、ビジネスの成果よりもユーザーのニーズを重視したデザイン、つまりインクルーシブデザインの本質を追求しています。
自分の住む世界の外側に目を向け、そこにいるユーザーを深く理解したとき、思いがけないチャンスが生まれると信じています。
三井物産が9月のダイバーシティ&インクルージョンウィークを迎えるにあたり、Moon東京スタジオのデザイナー2人に、すべての人を包括する(インクルーシブな)ビジネス、プロダクト、サービスをデザインすることの意味についてインタビューしました。
T.Y.「誰が使っても自分のために設計されたと感じられるデザインです。建築から消費者向けプロダクトのデザイン、従業員体験のデザインなど、多くの分野に適用できるものです。時には衝突もあり、すべての人に合ったデザインをすることは不可能かもしれませんが、すべてのユーザーにできる限り満足してもらうため、常に努力すべきだと思っています」
誰が使っても自分のために設計されたと感じられるデザイン。
M.R.「世界に存在する多様な人々や現実を理解し、デザインに取り込むことです。最近の調査で、市場に出回っているプロダクトを完全に使いこなせる人は全体の21%に過ぎないことが分かっています。つまり、効果的な使用を阻む障壁を取り除くためのインクルーシブデザインは、実は大多数の人のために存在していたと思っています」
世界に存在する多様な人々や現実を理解し、デザインに取り込むこと。
T.Y.「ヨーロッパのデザイン学校に留学していたとき、日本のデザインと比較して、ヨーロッパのデザインの包容力に感動しました。標識は明確でシンプル、直感的で視覚的なものが多かったのです。その一方で、日本の標識は極めて字数が多く、複雑で、使い勝手がわるいものでした。少しずつ変化はしていますが、このような傾向はまだ残っています。また、ヨーロッパの駅の改札は車いすの方も利用できるように、広く設計されていることに気づきました。インクルーシブデザインでは、自分とは異なる人々について考え、共感し、自分自身の思い込みを疑う必要があります。デザイナーである自分にとって最適なものをデザインしてしまう危険性は常にあります。しかし、自分にとって最適なものが他の人にとっても最適とは限りません」
インクルーシブデザインでは、自分とは異なる人々について考え、共感し、自分自身の思い込みを疑う必要がある。
M.R.「通常、インクルーシブデザインについて考えるとき、 エルゴノミクス(人間工学)、アクセシビリティ(便利さ)、高齢者や身体障がい者のためのデザインなど、物理的側面について考えます。しかし、認知的、感情的な側面も忘れてはいけません。
たとえば、色覚異常に苦しむ人々だけでなく、全世界の12%に相当する識字障がいに苦しむ人々なども考慮し、幅広い神経多様性についての理解を深めることが重要です。誰もが同じように情報を処理するわけではないので、デザインはそれを考慮したものでなければなりません。
感情的な包括性という点では、私たちがデザインしたプロダクトを使うときに、人々がどのように感じるかということを考慮しなければなりません。最近、Instagramでは、自身を男性もしくは女性として認識しない人々のために、より多くの代名詞が提供されるようになりました。Slackでは、さまざまな肌の色の絵文字が追加され、オンライン上でユーザーが最も快適と感じる方法で自分を表現できるようになりました。小さな変化に見えるかもしれませんが、今まで社会から無視されていると感じていた人々には、感情的に大きなプラスの影響を与えます」
誰もが同じように情報を処理するわけではないので、各ユーザーが私たちがデザインした製品を使うときに、どのように感じるかということも考慮しなければならない。
T.Y.「現在、 GORILというMoon Creative Labのベンチャーで、英語の発音を改善するための革新的な方法を開発しています。当初は「Speak Like Native」というプロジェクト名でしたが、ユーザーインタビューの過程で、「ネイティブのような発音」という要素が不必要で、多くのユーザーを混乱させていることに気づき、プロジェクト名は変更されました。より多くの方に効果的に使っていただけるよう、曖昧な表現を避け、よりシンプルで直接的な表現を用いることにしました。
また、過去には、てんかん患者向けのプロダクトを開発するMoonベンチャーに携わったこともあり、さまざまな新しい視点を考える機会を得ることができました。ユーザーのために日記を書くシステムを構築しましたが、てんかん発作の後は疲れ果て、日記を書くどころではなくなることを知りました。代わりに、その日の体調を示すアイコンをデザインし、ユーザーが自分の状態を素早く直感的に記録できるようにしました。後に音声機能も追加して、さらに使いやすく改善されました。
重要なのは、これらの改良のヒントはてんかん患者の方々、初期のプロトタイプに対するフィードバックに耳を傾けることで得られたヒントだということです。今まで、私たちは実際に使う人の声を聞かずに、闇雲に設計していたのです」
実際に使う人の声を聞かずに、闇雲に設計していた。
M.R.「以前、日本で視覚障がいのある方々向けに、電車や地下鉄の駅構内を移動するためのアプリケーションを開発したことがあります。このアプリは、駅構内のQRコードを読み取ると、正しい改札口やトイレなどに向かって、点字ブロックが敷かれた道を案内してくれるものでした。
このプロジェクトで興味深かったのは、視覚能力の限られたユーザーへ配慮すると、デザイナーとしては見た目を良くすることではなく、どうしたらうまく機能するかを考えることが重要だったという点です。ユーザーたちにとってこのアプリは娯楽や単に便利なだけのサービスではなく、生活を変えてしまうほどの影響力がある強力なツールだったのです」
見栄えをよくすることではなく、うまく機能させることが重要。
「このアプリを構築するために、私たちは視覚障がいのある方々とお話をして、支援団体に相談し、プロダクトのプロトタイプを構築し、ユーザーの体験をより深く理解する努力をしました。自分たちの経験や知識だけでは、上手くいかなかったでしょう。
また、このプロジェクトを通じて、インクルーシブデザインの原則がデザイン全般にどのように貢献できるのか、興味深いことを学びました。携帯電話やパソコンが夕方になると切り替える「ダークモード」は、もともと視覚障がい者向けのプロダクトに由来していることをご存じでしたか?字が読めない人のために開発された音声合成技術が、今ではAlexaやSiriといったAIアシスタント機能の主要な構成要素になっていることをご存じでしたか?最終的に、インクルーシブデザインはすべての人の役に立つのです」
最終的に、インクルーシブデザインはすべての人の役に立つ。
あなたがデザインするプロダクトやサービスはインクルーシブデザインだと言えますか?詳しくはこちらをご覧ください。
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